AUD合格への道③ーアサーション

AUD

AUD合格への道②でも記載しましたが、AUDのポイントとなる分野は内部統制と監査手続です。

両方の分野に関して切り離せない概念であるアサーション

AUD合格への土台の部分なのでしっかりと理解しましょう。

私はここの理解が曖昧だったのでAUD合格まで7回受験と非常に苦労しました…

いくつかのページに渡ってアサーションを解説していく予定です。

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アサーションとは

アサーションをAUDの参考書で調べてみると「経営者の主張」と表記されていることが多いです。

…なんのことか分かりませんよね。

監査人の目的は「財務諸表に重要な虚偽表示があるかないかについて意見を述べる事」です

重要な虚偽表示の根本ってなんでしょう。

財務諸表記載の数値が、実際の数値と異なっている事が虚偽表示です。
財務諸表記載の数値が、実際の数値と、監査人が決めた規定値以上に異なっている事が重要な虚偽表示(の一部※)です。(※粉飾決算や従業員不正等は必ずしも定量的には測れない為)

虚偽表示や重要な虚偽表示があるという意見は簡単です。実際の虚偽表示を発見する事で存在を証明できます。

では逆にこの虚偽表示や重要な虚偽表示がないという意見ってどうやって出したらよいでしょうか。

かなり難しいです。「存在しない事の証明」は一般的にも悪魔の証明と呼ばれていますね。

この記事を書いている2021年10月に、小室圭・眞子氏の結婚会見にて日本雑誌協会が小室佳代氏の遺族年金不正受給疑惑について質問し、両名が「そのような事実はありません」とのみ回答しました。心象は個々人によって違いますが、国民の大半がこれを以て納得したとは言い難いのではないでしょうか。このように「存在しない」事を証明するのは至難です。

監査及び監査論、AUDの世界では

「難しいけど、(重要な虚偽表示が)存在しない事を証明する」ことが監査人の仕事です。

とはいえ企業の情報を何から何まで100%全てチェックする事は、事実上不可能です。そんな時間はありませんし、それだけの作業を実施する人手を用意することもできません。

そこで監査人はアサーションを利用します。

監査人は「財務諸表を構成する各勘定科目に対してアサーションが満たされているか」をチェックし、

アサーションが満たされている+監査人が決めた規定値未満の誤差=重要な虚偽表示なし

としています。

試験対策上も、実務(特に若手の頃)上も、

アサーション=「重要な虚偽表示なし」を証明する際に満たされるべき条件

と理解しましょう。

期末監査手続き中、若手スタッフが深夜までゴリゴリと実施している作業は「アサーションが満たされている」ことを確かめる為に実施した監査手続きについて、監査調書化しているのです。

アサーションの例題

財務諸表記載の資産項目である「棚卸資産」に関して、会社は財務諸表(貸借対照表)に、

棚卸資産:100,000円

と記載していると仮定します。

この「棚卸資産:100,000円」という記載に重要な虚偽表示がないことを確かめるのが監査手続きの一環です。

上記の説明に沿うと、

  1. 棚卸資産のアサーションが満たされていること
  2. 監査人が決めた規定値以上の誤差がないこと

この2つを確かめる事で例題の監査手続きは完了です。

覚えるべきアサーション

理想は全アサーションの暗記です。

特に経理部署や監査法人勤務の方は実務上でもアサーションの全暗記を強く推奨します。

簡単に各アサーションの名称、内容、具体例を記載します。

BS(貸借対照表)項目(about account balances)

Existence(実在性):資産が実在する事を確かめる、帳簿から証憑へトレースする。
Completeness(網羅性):帳簿に記録されている資産に記載漏れがないかを確かめる、証憑から帳簿へトレースする。
Rights&Obligation(権利と義務):自社の所有であることを確かめる、契約書や領収書等を閲覧する。
Valuation(評価):外貨建資産の自国通貨換算が正しいかを確かめる。公示為替レート等をチェックする。

IS(損益計算書), SS(株主資本等変動計算書), CF(キャッシュフロー計算書)項目(about transactions and events)

Occurrence(発生):取引の発生を客観的に存在する事を確かめる、売上の場合先方の注文書等を閲覧する。
Accuracy(正確性):帳簿に記録されている数値が正確であるかを確かめる、売上の場合、先方の注文書等を閲覧する。
Completeness(網羅性):帳簿に記録されている資産に記載漏れがないかを確かめる、証憑から帳簿へトレースする。
Cutoff(期間帰属):当年の取引が間違いないか、前年や翌年に計上すべき取引ではないかを確かめる。会社が採用している(売上、仕入等の)計上基準に則して納品書や請求書等の証憑を閲覧する。
Classification(分類):計上された勘定科目が適切であるかを確かめる、(実務では)営業費用と売上原価に関してサンプルを取り各数値の根拠証憑を閲覧して、分類の適切性を確かめる。

Note(注記)項目(about related disclosures at the period end)

Occurrence&Rights&Obligation(発生、権利、義務)
Accuracy&Valuation(正確性、評価)
Completeness(網羅性)
Classification&Understandabilitiy(分類、理解可能性)

(実務では)BS, PL, SS, CF について手続きを実施している状態でNoteに関する監査手続きを実施する為、ここまでに実施してきた監査手続きで証明してきたアサーションを使用する事が多いです。

Note特有の手続きもあるにはあるのですが(取締役が保有する自社株の割合が正しいか等)、試験ではまず問われない(問題がマニアックになり過ぎる為)ので割愛します。

上記の、「(実務では)」、という文言がある箇所は試験ではあまり出ません。

アサーションの例題の解答

上記の例題について解説します。

まず、「監査人が決めた規定値」に関して例題で追求する意味がない(試験では規定値は所与である為)割愛します。(誤差は規定値内であったと仮定します)

ですので例題として取り上げた「棚卸資産」の「アサーション」について解説します。

「棚卸資産」はBS項目です。(←もしここが不明瞭な方はFARの勉強から始めて下さい)

つまり、Existence(実在性), Completeness(網羅性), Rights&Obligation(権利と義務), Valuation(評価), のアサーションを証明出来ればOK、という事になります。

アサーションの証明の為にどういった手続を実施するかについては上記「覚えるべきアサーション」の「BS(貸借対照表)項目(about account balances)」をご参照ください。

※※※もう一歩踏み込んだ応用※※※

「棚卸資産のアサーション、Existence(実在性), Completeness(網羅性), Rights&Obligation(権利と義務), Valuation(評価), の4つだけでいいんですか?何か足りない気がする。」と感じた方、素晴らしいです。

売上原価(CGS)のSIDEボックスを作成すると、右下期末棚卸資産、右上当期売上原価となります。(この内容に自信がない方はこちらへどうぞ→会計の超基本!SIDEボックス

期末棚卸資産の数量によって、当期の売上原価が変わる、つまり売上総利益以下に影響が出るので棚卸資産はBS項目でありながら、PL項目でもあります。

「BS項目としての棚卸資産」に対しての証明すべきアサーションは以下4つです。

Existence(実在性), Completeness(網羅性), Rights&Obligation(権利と義務), Valuation(評価)

「棚卸資産」に対しての証明すべきアサーションは以下9つとなります。

Existence(実在性), Completeness(網羅性), Rights&Obligation(権利と義務), Valuation(評価)Occurrence(発生), Accuracy(正確性), Completeness(網羅性), Cutoff(期間帰属), Classification(分類)

ポイントは「アサーションはBSIS,SS,CFNoteの3分類である事」「棚卸資産はBSIS,SS,CFの2分類の要素を含んでいる事」です。

試験本番でも頻出です。どうしても棚卸資産=資産=BS、という連想が(会計実務未経験者ほど)強く働きがちなのでつい「棚卸資産!資産だからBS項目!アサーションは4つ!」となりがちです。

このページの例題では「資産としての棚卸資産」という問い方なのでアサーションは4つで正解ですが、試験本番では注意してください。

まとめ

  • 内部統制(監査)、(期末)監査手続、どちらも財務諸表に対して意見を出すことが目的
  • 重要な虚偽表示が財務諸表に記載されていないかどうかに対して意見を出す。
  • 重要な虚偽表示が財務諸表に記載されていない事をどのように証明するか。
  • 「ない事の証明」は無理、会社情報を100%チェックする時間も人手もないので、以下青枠のロジックが監査意見の基礎となる。
アサーションを満たしている+監査人が決めた規定値未満の誤差=重要な虚偽表示なし

アサーションが監査意見の土台となる謂れについてご理解頂けましたでしょうか。

このページではアサーションの概論をお伝えしました。

試験対策上の内容については別のページでより詳細に掘り下げていきます。

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