米国公認会計士(USCPA)試験のファイナンスには大きく分けて「資金管理」「投資分析」「投資理論」の3項目に分かれます。
このページでは資金管理の基本事項をまとめて記載します。
このページ以外のまとめは以下リンク先をご覧ください。
ファイナンスー資金管理①
目次
1.無担保短期金融
1-1.クレジットライン(line of credit)
銀行からの借入契約の事です。
融資限度、信用限度額、信用枠とも呼ばれます。
当該金額枠まではいつでも自由に銀行から借り入れる事が出来ます。
ただし、一定期間内に一旦全額を銀行に返済する必要があります。
これは銀行側にとって短期融資が長期融資にならないようにする為です。
実務では、1ヵ月単位で月初に借り、月末に返済する、といった流れに設定している企業が多いです。
1-2.両建預金(compensating balance)
拘束預金とも呼ばれ、借入契約において一定額を残高として維持する必要がある預金です。
クレジットラインと組み合わせた出題が予想されます。
例題を通して見ておきましょう。
【例題】
KK社はM銀行と$500,000のクレジットライン契約を結んだ。
また、両建預金として借入額の10%を要求されている。
KK社は$300,000を期間9ヵ月年利5%で借り入れた。
この状況での実質コストはいくらか。
また、両建預金に金利は付かないものとする。
こういう問題はまず、実質的にKK社が手にする金額を考えます。
$300,000を借り入れますが、両建預金が10%なので借り入れのうち
300,000×10%=30,000は銀行に渡す必要があるので、
KK社が手にする金額は300,000-30,000=$270,000となります。
問題によっては初めからこの手にする金額の$270,000が記載されている場合もありますので、よく問題文を読みましょう。
次に負担金利を計算します。
$300,000×5%×(9ヵ月/12ヵ月)=$11,250
よくある間違いとしては、負担金利の計算に手にする金額の$270,000に利率を掛けてしまう事です。
金利は契約上の借入金額を基に計算されます。
銀行はそんなに甘くない、と認識してもらえれば間違いにくくなると思います。
ここまで来るとAPRを計算できます。
(11,250/270,000)×(360/270)= 0.05555…≒ 5.56%
1-3.コマーシャルペーパー(commercial paper)
割引方式の約束手形です。
信用力の高い企業が銀行借入や社債発行等より有利な条件で資金調達が出来るという特徴があります。
慣れない方は社債のページもご参照ください。
このCPもAPRの計算と同様に出題されると想定されます。
2.担保付短期金融
2-1.ファクタリング(factoring)
売掛金を今すぐに現金化したい!
そんな時に登場するのがファクタリングです。
売掛金とは「現金を受け取る事が出来る権利」でした。
あくまで権利であり、今は現金として機能しません。
そこで企業は「ファクタリング業者」に売掛金という権利を売却し、
「現金」を得る事が出来ます。
言葉を変えると、ファクタリングは「売掛金の割引」と言えます。
具体的に例題を通して見ておきましょう。
【例題】
KK社は代金受取期日60日後の売掛金を$100,000保有している。
ファクタリング業者から以下のような条件提案を受けた。
この提案を受けた場合、KK社のコストはいくらでしょうか。
(1) 手数料は売掛金額面金額の5%
(2) KK社はファクタリング業者から売掛金額面金額の80%を受け取る。
(3) KK社はファクタリング業者から受け取った金額に対して10%の金利を支払う。
(4) ファクター留保分とリコース義務はそれぞれ売掛金額面金額の1%、2%とする。
ひとまず正解と仕訳を先に記載します。
問題の答えは青字の合計額、$8,666となります。
私自身、上記のようなファクタリング問題を初めて見た時にはまったく意味が分からず、解説を見ても意味が分からず、無理矢理仕訳で覚えていました。
ファクタリングが何故分かり辛いのか?
おそらく実務でファクタリングに触れる機会が少ないからだと思います。
2-2.ファクタリングの例題解説
KK社が手にする金額をざっと見ておきましょう。
(1) 100,000×5%=△5,000
(2) 100,000×80%=+80,000
(3) 100,000×10%×(60/360)=△1,666
(4) 100,000×1% =△1,000
-5,000+80,000-1,666-1,000=$72,334
これを見てどう思いますか?
今すぐ使えるお金$72,334を得るために、
(80,000-72,334)/ 80,000 = 9.58%を犠牲にしています。
60日早く現金を手にするために、9.58%のコストを支払う。
私は「コストが高過ぎる」と感じました。
そして、「こんな商売誰が利用するんだろう」と不思議に思い、
「現実味のない話だからどうも頭に入ってこないな」と、
いつまでもこの分野が苦手でした。
ファクタリングに慣れるための前提ですが、
上記の条件は決してコストが高過ぎるわけではない。
という事です。
2-3.ファクタリングの理解を深める
予備校のテキストには書いていない話ですが、理解が深まる小話をします。
ファクタリングとは「現金を受け取る事が出来る権利」を「業者に売却して」「今すぐに現金を得る」取引です。
米国公認会計士の試験や問題では、まず「売掛金」のファクタリングしか登場しません。
しかし、実務では「受取手形」のファクタリングもあります。
私がファクタリング業者で、貰える金利が同条件の場合、
絶対に「売掛金」ではなく「受取手形」のファクタリングを引き受けます。
理由は「法的拘束力の強弱」です。
端的に言うと、売掛金を踏み倒された場合、究極的には裁判での判決まで待たねば代金は回収できません。
一方で受取手形を踏み倒すと、その手形は不渡手形となります。
不渡手形という言葉は聞いた事があるでしょうか。
ざっくり言うと不渡手形を出した会社は銀行との取引が事実上不可能となり、経済的には死んだと同然になります。
ファクタリング業者からの視点では、売掛金$100,000という担保を預かってKK社に$80,000を貸します。
しかし売掛金という担保は回収可能性が高くないのです。
よって、9.58%という金利をKK社に請求します。
あくまで一例ですが、現実世界の日本において、
売掛金のファクタリングの手数料が20%近い業者もいます。
米国公認会計士試験に受取手形を担保とするファクタリングが存在し、両者の比較説明があれば理解しやすかったなと思ったので、
ここで記載させて頂きました。
2-4.ファクタリング用語解説
仕訳に登場した用語について解説します。
・Factoring fee
ファクタリング業者に支払う手数料です。
一般的にも試験上でも契約の最初に支払う事が多いです。
・Interest expense
最終的な売掛金を回収するまでに発生する金利です。
これもファクタリング業者に支払う手数料です。
契約によって付帯有無は変わります。
試験上では金利計算をさせるためにほぼ必ず付帯していると考えて問題ないです。
上記例題では100,000×10%×(60/360)=△1,666
これがInterest expenseに該当します。
・Factor’s holdback(ファクター留保分)
売掛金保有先の返品に備える部分です。
売掛金が存在しているという事は取引があったという事です。
取引なので、相手先が「やっぱり返品します」と言ってくることもあるわけです。
そうなった場合、売掛金を買い取ったファクタリング業者からすると、「え!?返品されたら売掛金が減ってしまう!」となります。
よって、ファクタリング業者は返品に備えた代金を、一旦元の売掛金保有者から預かっておきます。
返品が発生するとこのファクター留保分から補填します。
返品が発生せず、ファクタリング業者が売掛金を回収するとファクター留保分は元の売掛金保有者に戻ります。
なので、費用(expense)ではなくreceivableという資産で計上します。
試験上ではほぼ必ず付帯されています。
・Recource liability(リコース義務)
取引先が倒産等により、売掛金が完全に回収できなくなった場合を考えます。
ここまでの説明でしたら売掛金の所有者はファクタリング業者です。
従って売掛金が回収出来なくなるリスク、
上記例題のケースだと$80,000を失うリスクはファクタリング業者が負います。
しかしリコース義務が付帯されている場合、売掛金が回収できなくなった場合の損失負担者は元の売掛金保有者になります。
上記例題のケースだとKK社が$80,000を失うリスクを負います。
上記例題ではリコース義務は$2,000としました。
試験で登場する場合、このようにリコース義務は金額として表示されています。
仕訳自体はシンプルで、
リコース義務の金額で費用/負債を計上します。
これはもうパターンとして覚えておいた方が楽です。
2-5.リコース義務について
2018年からIFRSとのConvergenceにより、USGAAPにも収益認識という概念が本格的に取り込まれました。
収益認識の解説については、監査法人勤務の会計士でも語り出すと夜が明けてしまうぐらい奥が深いのでここでは具体的に触れませんが、
試験対策キーワードとしては「支配の放棄」が重要になります。
リコース義務が付帯されていると、売掛金という「現金を受け取る事が出来る権利」が消失した際の負担主は、元の売掛金保有者です。
つまり
「現金を受け取る事が出来る権利」の支配はファクタリング業者に移っていない、元の売掛金保有者は支配権利を放棄していない
という事になります。
そして2018年からの収益認識の定義に照らすと、支配が放棄されていないので、そもそも元の売掛金保有者とファクタリング業者との取引は成立していないという事になります。
少しややこしい話をしましたが、要は
ファクタリングの問題でリコース義務ありの問題が出題される可能性は低いです。
どうしてもリコース義務の話が腑に落ちない方は飛ばしてもらって問題ないです。