前回記事にしたAUD合格への道ーまずは敵を知るで、私自身が合格に7回もかかったAUDの概略を説明しました。
2回目の記事は、合格の決め手となる分野について説明します。
合格の決め手とは言い換えれば受験者同士で差が付きやすい分野になります。
そして差が付きやすい分野とは監査実務経験の有無によって知識に差が出る内部統制と監査手続の分野にです。
なお、この記事は随所に専門用語が含まれます。全くの初学者の方には難解な表現があるかもしれません事をご了承ください。
内部統制と監査手続とは
内部統制とは不正を防止・発見するための企業毎の自主的な取り組みです。
監査人の目的は「企業が発行する財務諸表に重大な虚偽表示(Risk of Material Misstatement)が存在するかどうか」について意見を述べる事です。
意見を述べる為には、根拠が必要です。
監査に於ける根拠とは、監査人自らが企業の営業活動に対して直接チェックをして、間違いの有無を確かめる事で生成されます。このチェックが監査手続です。
ではチェックの分量はどのようにして決まるのでしょうか。
様々な要因により分量が変わりますが、最も影響を与えるのは内部統制です。
つまりタイトルの両者の関係は、
という関係になります。
理解したうえで参考書を読むと確かにそう書いてあるのですが、私が受験生の頃は実務経験がなかったため両者の関係が曖昧であり、少し捻った問題には全く対処出来ていませんでした。
内部統制
内部統制について深堀します。
米国公認会計士(USCPA)試験に登場する内部統制は、企業を以下の3点の面から助けてくれる性質があります。
これが学習時の理解の妨げになっていました。
監査法人で様々な企業の内部統制を確かめるうえで感じている事ですが
と理解して下さい。
確かにOperating、Complianceに係る内部統制も存在しますが、今まで実務で見てきた中で各企業が設定する内部統制の9割以上はReportingに関連しています。
そもそも財務諸表の虚偽表示って何?
これも座学だと分かったようでよく分かっていなかったです。
財務諸表の虚偽表示の原因は
不正については分かりやすい虚偽表示なので問題ないでしょう。
問題は「アサーションが満たされていないと財務諸表に虚偽が存在する事になる」という事です。
とりあえずこのページでは、
と覚えて下さい。
内部統制がダメでも監査手続(実証性テスト)がOKなら大丈夫
これも理屈では分かっても、なかなかすんなりとした理解には時間がかかりました。
理由としては予備校の教科書だと内部統制から統制テストの流れがスムーズ過ぎる事と、統制テストと実証性テストが同じ監査手続である事だと思います。
改めて文章にします。
当時を振り返るとこの整理と理解が出来ていなかったように感じます。
当時の私はウォークスルーは統制テストの一種かと誤認していました。ウォークスルーと統制テストはあくまで別であり、両者を合わせて内部統制の評価となります。どちらが欠けてもダメです。
そして内部統制が良かろうと悪かろうと実証性テストは必ず実施されます。
監査意見の根拠は実証性テストで得ますので、内部統制がボロボロでも実証性テストが完璧なら何の問題もありません。
内部統制はあくまでも各企業が自主的に実施している取り組みであるので監査法人からすると他人の取り組みです。他人の取り組みを自分の意見の根拠とすることは危険過ぎます。
更に内部統制は絶対ではないので、内部統制が良くても不正は発生しますし。逆に内部統制がボロボロでも不正は0件というケースも発生します。
したがって内部統制がダメでも実証性テストを実施し、テスト結果がOKなら監査意見に問題はありません。すなわち無限定意見(Unmodified Opinion)が出ます。
監査手続(ウォークスルー、統制テスト、実証性テスト)
監査手続は「ウォークスルー、統制テスト、実証性テスト」と監査人が自ら実施する手続を総称した言葉です。
参考書では「統制テストと実証性テスト」という記載になっていますが、私はあえて「ウォークスルー、統制テスト、実証性テスト」という記載にしています。
ウォークスルーと統制テストについてはここに至るまでに内部統制の項目で説明してきました。
したがって実証性テストについてポイントをまとめます
最重要はアサーション、問題を見たら常にアサーションを考える事
試験に合格し、監査実務を経験したうえで予備校のテキストやWeb講義を見ると確かにアサーションを重視している解説に聞こえます。
合格出来ずに苦しんでいた時期は、アサーションの表面上の理解しか出来ておらず、「全くの初学者がアサーションと実証性テストについて理解できるように解説せよ」と言われたら出来ない状態でした。
勿論、アサーションの本質的理解をせずにAUD合格をしている人は何人もいると思います。
しかし私には無理でした。そして年々難化しているAUDですから受験者はアサーションの理解が必須になると思います。
理解の為に極論すればアサーションが立証できれば実証性テストなんて不要です。
現実問題、アサーションの立証手段は実証性テストしかないので実施しているだけです。
つまり全ての実証性テストには必ず監査人が立証したいアサーションが存在します。アサーション立証目的のない実証性テストはありえません。
ここを理解しましょう。
そもそもアサーションって何だっけ?
参考書だと「経営者の主張」と書かれています。
それはその通りなんですが…初学者からしたら意味が分かりません。
ですのでアサーションの意味はこのように覚えて下さい。
そうすると、監査法人の仕事は「各財務諸表項目が各種アサーションを満たしているかどうかを実証性テストによって確かめている」という事が分かります。
監査論を追求しだすと正確ではないのですが、試験合格レベルではこう理解して下さい。
直接的に試験問題で、「この実証性テストはどのアサーションを立証する為に実施しているか」と問うてくる問題はそんなにありません。
その事もアサーションの理解が浅くとも合格出来てしまう要因の一つです。
しかし、「実証性テストはアサーションの立証」を理解していないと、難解な英文で統制テストと実証性テストの違いを問う問題に対応できません。
Existence、Completeness、Rights&Obligation、Valuation、Occurrence、Accuracy、Cutoff、Classification
最低でも上記は丸暗記し、使いこなせる知識にした状態で受験しましょう。
試験に出る統制テストの対象先
AICPAとPCAOBの2つです。
・AICPA・・・米国内未上場企業(例)Mars(カラフルなチョコレート菓子M&Mの製造会社)
・PCAOB・・・米国内上場企業(例)Apple、Microsoft等
どちらも実証性テストを実施し財務諸表に重大な虚偽表示があるかないかについて意見を述べる点は全く同じです。
以下が相違点です。
・AICPA・・・内部統制に対して意見は言わない
・PCAOB・・・内部統制に対して意見を言う
内部統制そのものに対して外部の監査法人が意見を言う言わないの違いがあります。
そして以下の点がややこしいです。
・AICPA・・・内部統制に対して意見は言わないが、内部統制の整備状況と運用状況は評価する。
・PCAOB・・・内部統制に対して意見を言う、その為に内部統制の整備状況と運用状況は評価する。
どちらも意見の有無は違えど、内部統制の整備評価・運用評価の2段構えである事は共通事項です。
参考書ではあたかも、PCAOBのみウォークスルー(整備評価)と統制テスト(運用評価)をしているかのように記載していますが、AICPAでもウォークスルー(整備評価)と統制テスト(運用評価)を実施しています。
まとめ:理解すべき流れと内容
①最終目的である意見を述べる為に実証性テストを実施する。
②実証性テストの分量を決める為に内部統制を確かめる。
③内部統制の確かめ方は
(1)ウォークスルーを実施して内部統制の整備状況を評価する
(2)統制テストを実施して内部統制の運用状況を評価する
④(1)と(2)により得られた結果から内部統制を確かめ、その結果に応じて実証性テストの分量が決まる。
・監査の最終目的は監査意見を出す事
・監査意見の根拠は実証性テストの実施により生成する
・実証性テストの分量を決める為に各企業の内部統制を確かめる
・内部統制のチェックは、整備評価と運用評価
・整備評価はウォークスルーを実施する、運用評価は統制テストを実施する
・内部統制が良くても悪くても、実証性テストは必ず実施する
・実証性テスト=各種アサーションの立証
・内部統制が良くても悪くても、実証性テストの結果によって監査意見は生成される
・AICPA(米国未上場企業)は財務諸表に対する意見のみが出される。内部統制は良くても悪くても問題なし。
・PCAOB(米国上場企業)は財務諸表に対する意見と、内部統制に対する意見、2つの意見が出される。内部統制が悪いと、内部統制に対する意見に問題が生じる。
少し長くなりましたが、AUDの学習に悩まれている方は一度見返してみて下さい。
上記の通りに理解出来ていますでしょうか。
理解不足だったなぁという学習者に向けて随時解説記事を作成していきます。
それでは次回の記事でお会いしましょう。
・Reporting
・Compliance