会計の保守主義の主役ともいえる勘定科目です。
まず、「貸倒引当金」は「資産のマイナス勘定」である事をしっかりと覚えましょう。
つまり元のポジションは右側になります。
目次
貸倒引当金の概要
貸倒引当金と何でしょうか。
企業取引は掛取引が通常です。
商品の受取後、数日数週間数か月後に代金を支払う取引形態の事を掛取引と言います。
学習当時の私は証券会社リテール営業に従事していました。
その時は金融商品の販売前に、顧客から買付代金を受領する事が当たり前の世界でした。
その取引形態に慣れきっていたので、掛取引を理解するのに随分苦労しました。
私と違い、本業で法人対法人の取引経験がある方はすんなり理解できるかと思います。
そして時々、こちらが売主の立場の時に、商品を先に引き渡して、2か月後に支払いを貰うなどと言った条件で取引をするケース等があります。
しかし不幸にも1か月後に買主が倒産した、失踪したなんて事があります。
これが貸倒です。
回収できていない販売代金(つまり回収するまでは「貸し」の状態)が、相手の倒産等で回収できなくなることですね。
その貸倒が発生した時、どうしましょうか。
普通に考えたら、回収できないと確定した時点で未回収分の金額を損金として計上するとなります。
しかし会計の世界では、保守主義の原則が発動します。
(会計の保守主義を参照ください。)
企業はほとんどの場合、毎年の貸倒の件数や金額を把握し、何年分ものデータを保有しています。
企業はこのデータを使用して、貸倒が発生していなくとも毎年貸倒に対する貯蓄を用意しておきます。
この貯蓄が「引当金」と呼ばれるものになります。
以上の説明が「貸倒引当金」の説明となります。
貸倒引当金の計算方法
具体的な貸倒引当金の金額はどのように決まるでしょうか。
試験に出る計算方法は大きく2つあります。
「売上」と「売掛金」を基にした計算です。
前者を売上高比率方(Percentage of Sales Approach)、
後者を売掛金残高比率法(Percentage of Accounts Receivable)
と呼びます。
前者の「売上」はISの科目です。
よって売上×比率=貸倒繰入金額
後者の「売掛金」はBSの科目です。
よって売掛金×比率=貸倒引当金期末残高
両者の違いは、
計算のベースがISかBSかに合わせて、計算結果を費用(IS科目)とするか資産のマイナス(BS科目)とするか
となります。
この2つがオーソドックスな試験対策です。
ただ、私がFARを受験した2018年4月から2018年12月の試験に於いては、TBS問題にて計算のベースが上記以外のものが出ました。
(具体的に何だったか覚えておらず…)
予備校のテキスト、洋書の問題集、模擬試験でも計算のベースは「売上」と「売掛金」しか見た事がありませんでしたが、
計算のベースがISかBSかに合わせて計算結果をISかBSかと覚えていたので対応出来ました。
貸倒引当金、例題
さて仕訳を見ておきましょう。
冒頭でも説明した通り、基本的には期末の売上or売掛金金額が確定したと同時に計算します。
当期の貸倒引当金はゼロと仮定します。
売上10,000と売掛金5,000、比率は双方とも1%と仮定しましょう。
売上高比率法の場合は
貸倒引当金繰入100/貸倒引当金100
IS科目である貸倒引当金繰入が10,000×1%=100と計算できるので
デビット貸倒引当金繰入が100、貸借一致の原則からクレジット貸倒引当金が100となります。
売掛金残高比率法の場合は
貸倒引当金繰入50/貸倒引当金50
BS科目である貸倒引当金が5,000×1%=50と計算できるので
クレジット貸倒引当金が50、貸借一致の原則からデビット貸倒引当金繰入が50となります。
「貸倒引当金繰入」は「費用」の勘定科目です。
上記仕訳は「費用」/「資産のマイナス」という仕訳になっています。
上記は何も起きていない平時の仕訳です。
ではここから2パターン見ておきましょう。
①実際に貸倒が発生した場合
貸倒が20発生したと仮定します。
貸倒引当金20/売掛金20
積み立てておいた貸倒引当金が減少し、本来回収出来るはずだった売掛金が減少するという仕訳です。
この仕訳は「資産マイナス」20/「資産」20という仕訳です。
つまり費用が登場しないので、貸倒が発生した年の収益費用、ISには何の影響も及ぼさないというわけです。
②引き当てた貸倒引当金が回収出来た場合
20回収出来たと仮定します。
売掛金20/貸倒引当金20
現金20/売掛金20
回収出来た分、売掛金20が復活し、当該回収分だけ減らしていた貸倒引当金を元に戻します。
その後、売掛金20を以て現金20が手元にやってきます。
省略して現金20/貸倒引当金20との仕訳でも正解ですが、慣れるまでは理解の為上記の2行仕訳で記載する習慣を継続される事をお勧めします。