株式を保有していると配当金をもらえるというのは大多数の方が想像しやすいのではないでしょうか。
日本株を実際に保有されている方は、現金配当を受領した経験もおありでしょう。
現実世界では現金配当が圧倒的に多いですが、試験に登場する現金以外の配当についてこのページで確認しておきましょう。
現金配当
最も一般的な配当方法です。
取締役会等において配当が決議(declaration)され、配当基準日(date of record)に株主名簿上の株主に配当金が実施されます。
試験や実務では、年内に取締役会で配当決議、期末日or期末日数日前が配当基準日、期末日後翌期に配当金の支払(date of payment)という流れが多いです。
それぞれ、配当決議、配当基準日、配当支払日の仕訳を確認しておきましょう。
<配当決議>
(Dr.) retained earnings XXX / (Cr.) dividends payable XXX
決議時点で繰越利益剰余金を減らして、配当に係る負債を計上します。
繰越利益剰余金を減らすのは、配当の原資が繰越利益剰余金から支払われるからですね。
繰越利益剰余金は企業が今までの営業活動を通して形成した貯蓄との認識が分かりやすいかと思います。
<配当基準日>
仕訳なし
何かありそうな感じがしますが、配当金額が確定する日です。
何となく確定計上仕訳を切りたくなる気もしますが、配当決議時点での仕訳が確定仕訳になっているので、配当基準日では何も仕訳を切る必要がないのです。
株式取引の仕組み上、ある株主が株式を売却するとき、必ず他の株主が誕生します。
したがって株式発行企業側から見ると、発行済株式数は変わりません。
なので決議時点から配当金額は変更しません。
例外として配当決議から配当基準日までの期間に、企業側が発行済株式数に影響を与える行動を実施すると決議時点のdividends payableが変更になります。
ですが、試験でも実務でもまず起こり得ない状況なのでこういった例外事項は無視してください。
<配当支払時>
(Dr.) dividends payable XXX / (Cr.) cash XXX
配当決議時点で計上しておいたdividends payableを取り崩して、実際に支払った現金分クレジット側にcashを計上します。上記していますが、通常は配当決議から配当基準日を経て、配当決議時点から見て翌年に支払われます。
「(Dr.) 負債 / (Cr.) 資産」の仕訳からも分かる通り、前期の配当活動によって当期の損益には影響を与えない事が分かります。
現物配当
現金以外の資産(棚卸資産や土地など)で配当を実施する事を現物配当と呼びます。
現実の上場企業においてはまずありえない配当ですが、非上場企業で少数の身内が株主になっている中小企業等では発生しうる配当になっています。
現金との相違点として、配当決議時に昔から保有していた資産を配当決議日時点の公正価値で再計上する仕訳が発生します。
<配当決議時>
(Dr.) investments 50 / (Cr.) gain on appreciation of investments 50
(Dr.) retained earnings 150 / (Cr.) property dividends payable 150
上記例では、投資資産に関して当初取得日の公正価値を100として、配当決議時の公正価値を150としており、取得日の公正価値より配当決議時の公正価値が高くなっているケースを想定しています。
試験に登場する場合も、gainでの登場が多いとは思いますが、問題文の条件から当初取得日の公正価値より配当決議時の公正価値が低くなっている場合は、
(Dr.) loss on appreciation of investments XXX / (Cr.) investments XXX
という仕訳になる事を確認しておいて下さい。
<配当支払時>
配当支払時は現金配当と同様に、計上しておいた負債を取り崩し、出て行く資産を配当決議時の公正価値で計上します。
(Dr.) property dividends payable 150 / (Cr.) investments 150
清算配当
清算配当とは、利益の還元ではなく出資金を返還するイメージの配当形式です。
他の配当との相違点としては、利益の還元ではないためretained earningsは用いられず、additional paid in capitalを削って配当を捻出します。
出資している株主からすると、以前自分が出資した分の一部を返還してもらう状態になります。
<配当決議時>
(Dr.) additional paid in capital XXX / (Cr.) dividends payable XXX
説明の通り、APIC/未払配当金、という仕訳になります。
<配当支払時>
(Dr.) dividends payable XXX / (Cr.) cash XXX
支払時は今までと同様です。
手形配当
利益出たので配当で利益還元をしたいが、手元にまだ現金が入ってこないので今すぐの現金支払は無理です。
という状況で登場するのが手形配当です。
手形、という単語から連想しやすいかと思いますが、大体において決議時点から1年以上経過した後に配当支払が実施される事が多いです。
通常配当との相違点としては、決議から支払までに貯まった利息費用を支払時に計上する点があります。
<配当決議時>
(Dr.) retained earnings XXX / (Cr.) scrip dividends payable 150
未払配当金の勘定科目名にscripと付いていますが、特に気にせず通常の配当決議時の仕訳と内容は同じです。
<配当支払時>
上記の通り、通常の配当支払仕訳に加えて、デビット側に発生した利息費用を計上します。
手形を発行したがゆえに発生した利息費用です。
現実でも試験でもあまり見た事はないです。
株式配当
REGでもよく見る株式配当はFARでも割と登場します。
名称の通り、株主への利益還元として現金や資産ではなく、新たに株式を発行して株式を交付します。
各株主の保有株式数は増加しますが、比率は変わりません。
FARの試験で問われる論点は企業が新たに発行する株式数の程度によって計上数値が変わる点です。
ポイントとなる数字は増加株式の比率が、元の発行済株式数に対して20-25%より多いか少ないかです。
低配当率の時は配当決議時の時価を用いて計上し、高配当率の時は発行される株式の額面を用いて計上します。
ルールとして覚えてしまうのが楽ですが、一応理屈としては、
という理由があります。
株式配当の例題
額面$1の株式を株式配当として100株発行した。株式配当決議時の時価を$3とする。
決議時点の発行済株式数を①1,000株、②300株とした場合それぞれの仕訳を書きなさい。
発行済株式数1,000株に対して100株の株式配当
100÷1,000=10%であるので、20-25%より少ないため低配当率になり、配当決議時の時価$3で計上します。
<株式配当決議時>
$3×100株で株式配当全体の金額は$300であるので、retained earningsの減少を$300で計上します。
stock dividends distributableは株式配当の額面金額で計上される仮勘定の性格を持つ資本項目です。
実態としてはcommon stockに近い意味合いを持っています。
そして差額をadditional paid in capital で調整して完成です。
<株式発行時>
(Dr.) stock dividends distributable 100 / (Cr.) common stock 100
この仕訳で仮勘定のstock dividends distributableを消し、正式にcommon stock を計上して完了です。
発行済株式数300株に対して100株の株式配当
100÷300=33.33%であるので、20-25%より多いため高配当率になり、新たに発行される株式の額面$1で計上します。
<株式配当決議時>
(Dr.) retained earnings 100 / (Cr.) stock dividends distributable 100
$1×100株で株式配当全体の金額は$100であるので、retained earningsの減少を$100で計上します。
stock dividends distributableは株式配当の額面金額で計上される仮勘定の性格を持つ資本項目です。
retained earningsの減少は$100であり、stock dividends distributable$100であり同額であるため差額調整の必要はありません。高配当率の特徴です。
<株式発行時>
(Dr.) stock dividends distributable 100 / (Cr.) common stock 100
この仕訳で仮勘定のstock dividends distributableを消し、正式にcommon stock を計上して完了です。