ストックオプションをわかりやすく

FAR

ストックオプションについて、苦手な人は多いのではないでしょうか。

FARの基礎を完璧に固めた人でも苦手な人はいます。

私自身、証券会社在籍経験がありましたが理解するまでに時間がかかりました。

慣れるまではそれなりに難しい分野ですが、慣れてしまえばとても簡単です。

つまり試験合否の分かれ目になりやすい分野であるという事です。

是非、このページでストックオプションの流れを理解し、本番の捻った問題に対応できるようにしましょう。

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ストックオプションをわかりやすく

上場会社にお勤めの方なら、もしかすると実際にストックオプションを貰った経験もあるのではないでしょうか。

ストックオプションを学問的に解説すると

あらかじめ決められている一定の価格(権利行使価格:option price)で、株式を買う事が出来る権利。会社の役職員に付与される事が多い。

となります。

意味が分からないですね。

ストックオプションの理解が何故難しいか考えてみたのですが、おそらく以下の前提を設定すると理解しやすいです。

・非常に業績順調、将来性バツグンの会社の株式
・業績見通しともに順調なので、半永久的に株価が上昇し続ける株式
・世界中の投資家が買いたくて仕方ない株式

この条件がそろう事によって

代表取締役
代表取締役

10年後に株価が10,000円になるであろう我が社の株式を1株10円で買う権利をあげるよ!だから我が社の株価が上昇するようにみんな一生懸命働いてね!

というストックオプションが持つ報酬的な側面の理解がしやすいかと思います。

上記のストーリーが実現したと仮定して用語解説をすると、

株価10,000円:公正価値
1株10円:権利行使価格
1株10円で買う権利:ストックオプション

となります。

時系列で見るストックオプション

説明してきたようにストックオプションは株式を買う権利です。

権利の実行(exercise)とは株式買付を実行することです。

この実行、いつでも自由に出来るのでしょうか。

試験で出るパターンとしては「権利付与日から○○年以上会社に在籍する事」という条件が付きます。

権利をもらってすぐ実行出来るわけではないのですね。

代表取締役
代表取締役

一生懸命働いて我が社の業績を上げたいから、役職員に権利をあげるけど最低でも○○年は頑張って働いてね!権利をあげてすぐに実行されたのでは会社として報酬をあげた意味がないからね!

権利を実行して初めて、株式を保有する事になります。

付与(grant)時点ではあくまでも権利があるだけ、保有株式数はゼロ株です。

実行(exercise)する事によって権利(ストックオプション)が消え、権利に応じた株式を保有します。

そして株式は売却する事で現金(cash)になりますので、最終的には売却(sale)が発生します。

イメージしやすくするため、上図にて関係性を整理しましょう。

付与(grant)・・・会社から個人へストックオプションが与えられた日。この時点で会社はあくまでも「権利」という金融商品を渡しただけであり、発行株式数は0株です。

実行(exercise)・・・上記例では付与日から3年としています。試験でも2~3年とする出題が多いです。その間に条件に反する行動を取った人(試験上では退職するパターンが多い)は権利放棄とみなされます。
上記例では2020年4月1日以降に個人は権利を実行して株式を買付出来るようになります。
勿論、個人は株式を買付せずに権利を自ら放棄する事も可能です。この時点から権利を実行した個人が発生する場合に、会社は株式を発行することになります。

売却(sale)・・・付与と実行に関しては主語が会社でしたが、売却の主語は権利行使者つまり個人になります。会社側からすると付与と実行で完了です。売却に関しては各個人の自由です。FARでは売却を問われる事は少ないですが、REGでは重要な論点になります。

試験でのストックオプションの流れを整理しておきましょう。

ストックオプションの時系列毎の仕訳(会社側)

上記説明に加えて、付与実行売却の仕訳をセットで覚える事で理解が強固になります。

権利付与日(grant)

(Dr.) Deferred compensation expense / (Cr.) Stock option outstanding

(Dr.) 資本のマイナス / (Cr.) 資本

自己株式が資本のマイナス項目である事と同様に、権利付与時点ではストックオプションも市場に流通しない株式です。資本のマイナス項目を元のポジションに、資本項目を元のポジションに記載します。

ストックオプションは自社の株式を買う権利です。付与日の時点では自社の株式とはなっていませんが、実行される事で自社の株式が実行分増加します。したがって株式が純資産である事から、ストックオプションも純資産である事が分かります。純資産の元のポジションであるクレジットに純資産項目が発生します。

この仕訳から、権利が実行可能になる日(権利行使日)まで、資本のマイナス項目を取り崩しながら、毎期費用認識していきます。

再びこの図ですが、この例だと付与日から実行までが丁度3年です。

2017年4月1日に発生した「Deferred compensation expense」を3で割って、実行可能となる2020年4月1日まで1年ずつ費用認識していくことになります。

権利実行日までの毎期末に以下のように付与日の資本のマイナス項目を取り崩し、費用を認識する

(Dr.) Compensation expense / (Cr.) Deferred compensation expense

(Dr.) 費用 / (Cr.) 資本のマイナス

上記の流れから、ストックオプションという制度は言わば役職員への賞与に似た側面があります。

賞与や給与といった役職員への支払いは費用である事と同様に、ストックオプションも費用となります。

ですが、会計には費用収益対応の原則があります。

この費用は権利実行日に確定しますが、突然な退職でもなければ、発行し貰ったストックオプションを放棄する人はほとんどいないでしょう。

ですから、金額、期間が相当程度に実現する可能性が高いとみなされるので、

付与日に全費用を認識するのではなく、時の経過に伴って費用を認識していくという処理になります。

権利実行日(exercise)

権利実行日の仕訳は以下のようになります。

(Dr.) cash / (Cr.) common stock
(Dr.) stock option outstanding / (Cr.) additional paid in capital

まずクレジット側ですが、common stockとadditional paid in capitalは株式発行時の仕訳と同じです。

デビット側では権利が行使された事により、「権利が消えて」「株式購入代金が入ってくる」事を意味しています。

デビット側の処理は大丈夫でしょうか。

学習当時の私は「ストックオプションを貰った人は報酬として株式をもらっているのに、なんでわざわざ改めてお金を払わなければならないのだろうか」と不思議に感じており、理解にたどり着くまで時間がかかりました。

自分なら、わざわざ大仰に権利をもらっても、株式を貰うときにはお金を払うなんて、そんな報酬貰っても嬉しくない。従業員が嬉しくないのに、ストックオプションが報酬となる意味が分からない

と感じていました。

ここで冒頭で書いた前提が役立ちます。

試験では半永久的に株価が上昇し続ける株式を想定してください。

そうすれば、お金を払って購入することでも報酬として機能している事が理解しやすいかと思います。

余談ですが、証券会社在籍時には営業で好成績を残した社員に褒賞としてストックオプションがありました。

また、現役時代大企業の役員を務めていた方々はストックオプションを保有しており、権利行使によって株式を手に入れた為、株式の保管場所として証券口座を開設する、といったケースは多々ありました。

私が見てきた感覚では、本当に報酬として機能していたケースは50%くらいです。

残りは、公正価値<権利行使価格となり、逆報酬となっていました。
実行前の権利の状態なら、公正価値が低い時は権利を放棄すれば問題ないですが、
実行後株式を保有した状態で公正価値が低くなると、、含み損になります。


そういったケースを見てきたからこそ理解が難しかったのかもしれません。

まとめ

FAR試験のストックオプションについての重要論点を以下にまとめます。

・ストックオプション=「一定の価格で株式を買う事が出来る権利」を金融商品化したもの

・前提として半永久的に株価が上昇し続ける株式を想定するとストックオプションが報酬として機能する意味を理解しやすい

・ストックオプション付与のみでは株式発行はされない。ストックオプション受領者が一定の価格分の現金を支払う事で株式の発行がなされる。

・企業は付与日に「資本のマイナス/資本」の仕訳を切る。

・企業は付与日から権利実行可能日まで、「費用/資本のマイナス」の仕訳で期間にわたって均等に、付与日に計上した資本のマイナスを取り崩し、費用計上する

・権利実行日(入金された日)に株式発行をするので、「common stock」と「additional paid in capital」をクレジット側に計上する。
同時に付与日にクレジット側に計上した「stock option outstanding」を消し、入金された「cash」を計上する。

【参考】ストックオプションの時系列毎の仕訳(個人側)

ここからはFAR試験にはほぼ出ない内容になっています。
ストックオプションの理解を深めたい方やREG向けのストックオプションについて知りたい方はご覧ください。

FARのストックオプションで個人側の仕訳が問われる問題は見た事も聞いた事もありません。

しかし、REGではストックオプションを受領し、実行した個人側の税金処理を問う問題は頻出であることからいつFARで登場してもおかしくないと思います。

そこで参考までに個人側の仕訳も記載しておきます。

なお、こちらではREGの内容も解説しますので以下のように仮定します。

・登場する個人はストックオプションを1単位付与された。
・ストックオプション1単位につき、1株を付与日の株価で買う事が出来る。
・付与日2017年4月1日のストックオプションの価格は$30とする。
・付与日2017年4月1日の株価は$10とする。
・実行可能日かつ実行して株式を受領した日は2020年4月1日であり、当日の株価は$100とする。
・受領した株式を売却した日は2027年4月1日であり、当日の株価は$10,000とする。

私が知る限り、予備校のテキストにも記載はないかと思いますのでお役に立てるかと思います。

権利付与日(grant)

(Dr.) stock option 30 / (Cr.) deferred revenue on stock option 30

(Dr.) 資産 30 / (Cr.) 負債 30

ストックオプションをもらった側は、当日のストックオプションの公正価値で資産計上します。

また、付与日時点では資産受領による対価(試験では「受領から○○年勤務する」)を提供していませんので収益ではなく負債で計上します。

権利付与日の株価$10は関係ありません。ひっかけでよく出るので注意してください。

なお、権利付与日から権利実行可能日までは3年であるので、2017年最終日に1年分を収益として認識します。

(Dr.) deferred revenue on stock option 10 / (Cr.) revenue on stock option 10

(Dr.) 負債 10 / (Cr.) 収益 10

権利実行日(exercise)

権利実行日の仕訳は以下のようになります。

まずクレジット側ですが、問題文の条件より権利実行可能日かつ実行した日の株式の公正価値が1株$100であり、このストックオプションは1単位につき1株と交換できるので2020年4月1日の公正価値で手に入れた株式を計上します。

デビット側では権利行使により、「2017年4月1日の株価$10と同額の金銭を支払う事により1株を買う事が出来る」「権利を実行したので権利という資産が消える」事を意味しています。

差額$60は権利実行によって、2020年4月1日の公正価値$100よりも安く株式を入手出来た事に対する利益を表しています。

なお、REGの出題範囲ですが、権利実行時点の「権利付与日から実行日までの利益」、この問題の例だと$60は、条件を満たせば長期資本利得(long term capital gain)として課税、満たしていなければ通常所得(ordinary income)として課税されます。

株式売却日(sale)

2020年4月1日に$100であった株式を、2027年4月1日に$10,000で売却します。

ここはシンプルな仕訳です。株式を手放し、売却代金を手に入れ、差額は利益です。

REGの試験では、この権利実行日(exercise)と売却日(sale)の差額利益は資本利得(capital gain)として課税されます。

なお資本利得には短期(short)と長期(long)があり、FARでの短期長期の分かれ目である、1年以上経過しているかどうかで短期と長期に分かれるという特徴があります。

この問題では実行日が2020年4月1日、売却日2027年4月1日と7年が経過しており1年以上なので、例題のgain$9,900は「長期資本利得(long term capital gain)」です。

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