純資産会計ー自己株式

FAR

試験で純資産会計から出題されるとき、ほぼ必ず自己株式の論点が含まれます。

深追いし過ぎるとややこしくなりがちな分野です。

ある程度、「会計上こういうルールなんだ」と割り切って学習していきましょう。

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自己株式(Treasury Stock)とは

企業は自らが発行した株式を市場や株主から買い戻すことがあります。

理由としては様々ありますが、試験対策上は資本効率を向上させるためと覚えておいて下さい。

この企業による自社株の買い戻し分が自己株式です。

自己株式には議決権、配当受領権は付与されません。これが付与されてしまうと企業が自分で自分に権利を与える事になってしまい、健全な運営を阻害する要因になるからです。

したがって企業にとって自社株式には資産の要素はなく、資本の払い戻しの性格を持つことになるため、勘定としては「資本のマイナス項目」となります。

初学時に自己株式が絡む問題を解く際には、機械的にデビット側にTS(Treasury Stockの略称)を書くことをお勧めします

そして自己株式のやり取りには損益が発生しない事も覚えておきましょう。

自己株式のやり取りは資本取引と呼ばれ、通常の企業活動である損益取引とは違います。

資本取引では損益は発生しません。損益が発生する取引は全て損益取引です。

初歩的な問題として、自己株式が絡む取引の問題の選択肢にgain/lossが含まれる選択肢が紛れ込む事があります。自己株式が絡む取引ではgain/lossが登場する選択肢は✕であると瞬時に見分けられるように慣れておきましょう。

FARのMC問題は平均的に1問あたり90秒以内に解かないと4時間の制限時間に間に合いません。

ショートカット要素として重要になりますので覚えておいて下さい。

2つの自己株式計上方法

自己株式を帳簿に記入する為には自己株式の金額を計算しなくてはなりません。

計上方法は2通りあります。

・原価法(cost method)
・額面価額法(par value method)

ポイントはどの時点の株価を使用して計上するかという点です

原価法自己株式を一番初めに取得した際の金額を以て計上します。
額面価額法取得した自己株式が当初発行された時の額面金額を以て計上します。

例題
以下それぞれの番号の状況で切られる仕訳を書きなさい。

(1) 額面$30の普通株式200株を発行し、発行時時価は$40であった。
(2) 200株のうち100株を1株$50で買い戻した。
(3)’ 買い戻した100株を$45で再発行した。
(3)” 買い戻した100株を$55で再発行した。
(3)”’ 買い戻した100株を消却した。

原価法(cost method)

(1) 額面$30の普通株式200株を発行し、発行時時価は$40であった。

株式発行時の仕訳です。疑問に思った方はこちらのリンク先をご参照ください。
純資産会計ー株式発行

(2) 200株のうち100株を1株$50で買い戻した。

原価法のポイントです。(1)の発行時仕訳の金額は関係なく、買い戻した時の価格$50×買い戻した株数100株で$5,000を計上します。

もう一つのポイントはcommon stockとadditinal paid in capital (CS)は変動しない(影響がない)という事です。

自己株式の計上だけで資本がマイナスされているのでCS関連は触る必要がないです

慣れないうちは「自己株式=資本のマイナス項目」という言葉につられて、買い戻し時にcommon stockを触りたくなるかもしれませんが、関係ありません。ここの仕訳をしっかりと覚えましょう。

(3)’ 買い戻した100株を$45で再発行した。

自己株式を再び普通株式として発行する事を再発行といいます。再発行時は自己株式を消すために反対仕訳を切ります。それがクレジット側のtreasury stockの計上です。

普通株式として発行するので投資家からの入金があります。それがデビット側のcashの計上です。

自己株式の差額は原則としてadditional paid in capitalを用いて調整します。損益取引ではないので費用収益の動きによって変動するretained earningsはなるべく使用しないと決められています。

しかし今回の例題ではadditional paid in capital (TS) がゼロなので、調整できません。

その場合は記載している通り、retained earningsを用いて調整します。

仕訳上のイメージとしては「$5,000の価値を持つ自己株式を手放して$4,500の現金を入手した。差額$500の不足分は本来追加払込資本を減らして調整するが、追加払込資本がゼロの場合はやむを得ず繰越利益剰余金を用いて調整しよう」という流れになります。

(3)” 買い戻した100株を$55で再発行した。

(3)’の逆パターンで、自己株式の価値以上の現金が入ってきた場合は、差額をadditional paid in capital (TS) で計上します。

自己株式の価値以上の現金が入ってきたパターンでは調整勘定科目は必ずadditional paid in capital (TS) となり、retained earningsが用いられる事はありえません。

クレジット側にretaind earningsを計上する事が出来てしまうと、利益操作が出来てしまい、正確な帳簿記入が難しくなり、ひいては財務諸表利用者に正しい数値を提供できなくなってしまいます。

また、会計の保守主義を思い出して頂いても、費用計上(利益減少)には寛容な会計学ですが、利益計上(利益増加)に対してはかなり厳しいルールがあります。

自己株式取引で繰越利益剰余金が増加することはありえない、と覚えて下さい。

(3)”’ 買い戻した100株を消却した。

自己株式の消却とは、株式の存在を消す事です。

したがって、それぞれの元のポジションの反対仕訳を切る事で自己株式とcommon stockとadditional paid in capital (CS) を消します。

消却時にはcommon stockとadditional paid in capital (CS) が登場します。

上記仕訳の数値を確認しておきましょう。

common stock$3,000とadditional paid in capital (CS)$1,000の数値は当初発行時の数値です。

treasury stock$5,000は原価法なので自己株式当初取得時の数値です。

差額調整にはadditional paid in capital (TS)を使用したいですが、今回のケースではゼロであるのでretained earningsを使用して差額を調整し、貸借を一致させて完了です。

額面価額法(par value method)

(1) 額面$30の普通株式200株を発行し、発行時時価は$40であった。

株式発行時の仕訳です。疑問に思った方はこちらのリンク先をご参照ください。
純資産会計ー株式発行

(2) 200株のうち100株を1株$50で買い戻した。

額面価額法のポイントです。(1)の発行時仕訳の額面金額$30と買い戻し株式数100株で$3,000を計上します。

それだけでは取得に要した$5,000に足りない場合、additinal paid in capital (CS)も発行時の$10($40-$30)と買い戻し株式数100株で$1,000を計上します。

それでも足りない分はadditional paid in capital (TS)を差額調整に使用しますが今回のケースでは残がありません。

したがってretained earningsを用いて差額$1,000を調整します。

状況によってはadditional paid in capital (CS)を調整しますが、common stockが登場しない点は原価法と同じです。

慣れないうちは「自己株式=資本のマイナス項目」という言葉につられて、買い戻し時にcommon stockを触りたくなるかもしれませんが、関係ありません。ここの仕訳をしっかりと覚えましょう。

(3)’ 買い戻した100株を$45で再発行した。

基本は入ってきた現金を金額通り計上し、消えていく自己株式を当初額面×株式数で計上します。

差額に関しては、資本取引なので損益は発生しません。

そしてこの場合の実態は株式発行と同じであるため、株式発行時の額面と時価の差額をadditional paid in capital (CS) で調整したように、additional paid in capital (CS) を用いて差額分を調整します。

再発行によって、新たにadditional paid in capital (CS) が増加したことを表しています。

(3)” 買い戻した100株を$55で再発行した。

金額が違うだけで実態は(3)’と同じです。

再発行によって新たにadditional paid in capital (CS) が$2,500増加していることに着目し、仕訳に慣れて下さい。

(3)”’ 買い戻した100株を消却した。

額面価額法では償却時仕訳が楽です。

原価法でも見ましたが、消すcommon stockは発行時の額面で計上されています。

額面価額法ではtreasury stockを発行時の額面で計上しているので、上記仕訳の通り、common stockとtreasury stockが必ず一致します。

重要論点のまとめ

自己株式の論点で試験上重要な点をまとめます。

・自己株式は資本のマイナス項目、元のポジションはデビット側

・自己株式のやり取りは資本取引、損益は発生しない

・自己株式の再発行時、差額調整は基本的にAPIC

・差額調整の為のAPIC残高がゼロの場合、仕方がないのでretained earningsを用いる。ただしretained earningsがクレジット側に計上される事はありえない(利益の増加になるから)

・自己株式のやり取りでcommon stockが登場するのは株式消却(発行済株式を捨てるイメージ)時のみ
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