純資産会計ー優先株式

FAR

株式発行自己株式と内容を確認して来た後に優先株式についても見ておきましょう。

株式発行のページでもお伝えしましたが、基本的には配当や清算時に普通株式より優先権があるという理解で十分です。

しかしながら、PERなどの各種比率計算時に優先株式に係る数値は除外して計算するというルールを知らないと正解出来なくなります。

その時の説明が腑に落ちやすくなるようこちらのページで優先株式について基本事項をまとめておきます。

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優先株式、2つの特長

大別すると「配当優先権」と「清算時投資元本回収優先権」が優先配当の特長となります。

配当優先権

優先株式は普通株式に優先して配当金を受領する権利を有しています。

試験で出る可能性があるので、そもそも株式会社が配当を実施する際の流れを把握しておきましょう。

①配当金の総額を決議する
②優先株主に対して優先株式額面×定められた%を優先的に配当する
③残額が普通株式に対して配当される

このような流れで配当は決まり、配分されます。

簡単な例で確認しておきましょう。

①KK社は今年の配当金総額を$30,000と決議した。
②額面$10、配当率3%と定めた優先株式が50,000株あり、額面$5の普通株式が80,000株あると仮定する

(1) まずは優先株式の額面×株式数に%を掛けて、優先株式に対する配当金を計算します。

$10×50,000株×3%=$15,000

(2) 次に普通株式に対しても額面×株式数に優先株式に対する%と同比率を掛けて配当金を計算します。


この優先株式と同じ比率というのがルールです。そういうものだと割り切って覚えてしまうのが効率が良いと思います。

$5×80,000株×3%=$12,000

(3) 配当金総額$30,000から優先株式配当$15,000と普通株式配当$12,000を差し引いても、まだ$3,000残っています。

この$3,000は優先株式と普通株式の金額で按分します。優先株式$500,000($10×50,000株)と普通株式$400,000($5×80,000株)、5:4の比率ですね。

$3,000÷9=$333(比率1単位あたりの按分金額)
$333×5=$1,665(1単位あたりの按分金額×優先株式に係る配当比率5)
$333×4=$1,332(1単位あたりの按分金額×普通株式に係る配当比率4)

したがって優先株式に係る配当総額は$15,000+$1,665=$16,665、普通株式に係る配当総額は$12,000+$1,332=$13,332となります。

清算時投資元本回収優先権

企業が倒産した時に出資者たちは企業に対して「お金返して!」と詰め寄ります。

その際にも優先される順番がルールとして決まっています。

優先順位1位:債権者(Creditor)

銀行等の債権者、会社にとって直接的負債の相手先が最も優先されます。

優先順位2位:債券保有者(Bond holder)

次に債券保有者への返済が優先されます。会社の立場から見ると債券保有者は間接的負債の相手先となります。

試験に直接的に登場しませんが、債券にも優先債券と劣後債券(債券の場合は普通債券とは呼ばず、劣後債券と呼びます)

優先順位3位:優先株主(Preferred stockholder)

優先株式額面×優先株式数の金額を分配する事が優先されます。(株主への支払は返済とは言いません)

優先順位4位:普通株主(Common stockholder)

1位から3位に返済してもまだ企業に現金や現金化可能資産が残っている場合には普通株主にも出資分が分配される事があります。金額計算は額面×株式数です。

2種類の優先株式

優先株式関連の出題で主要な分野は2種類の優先株式の相違点について問うてくるパターンです。

順に確認しておきましょう。

参加型優先株式(participating preferred stock)

今まで説明して来た優先株式の特長である、「普通株式より優先して配当金がもらえる」との内容は、あくまでも順番の優先であり、金額の優先とは限りません。

参加型優先株式では順番、金額ともに普通株式より優れています。

あまり深く意識せずとも、特に問題文中で言及されていない限り、試験で登場する優先株式は参加型優先株式の条件を満たしています

参考程度に覚えておいて下さい。

累積型優先株式(cumulative preferred stock)

優先株式と言えども、企業が配当金を払う余裕がない場合には配当金を受領する事は出来ません。

しかしながら、累積型優先株式には定められた額面分について、もらえなかった場合は翌年(翌年ももらえなかった場合はさらに翌年への繰り越し)に繰り越して配当金をもらえます

額面$100に対して、1%の配当が定められている累積型優先株式について、1年目と2年目に配当の支払がなかった場合、3年目には1%×3年分で3%の配当がもらえます。

累積型優先株式の重要論点としては、上記例のように支払余裕がなく定められた%の支払を実施しなかった年について、企業はどのような会計処理を実施するのかという点です。

優先株主からするともらえなかった年は「ああ残念、でもまた企業に余裕が出てきたら今年分もまとめてもらえるしまあいいか」で済みますが企業はどうしたらよいでしょうか。

繰越配当金(dividends in arrears)として記録しておき、払える時に払います。

問われやすいのが、この繰越配当金、実は負債ではありません

配当金の法的効力の根拠は取締役会等の発行側企業の決議を以て発生するという考え方があります。その考え方に沿うと、累積型優先株式と言えど支払がない=今年は配当決議を実施していない≒配当金支払の法的根拠がない」という理屈です。

ここを深堀すると悩ましい論点であり試験には関係ないので、試験対策上は「繰越配当金は負債ではない、計上されない、注記(Note)に記載される、比率計算では除外する」と覚えておきましょう。

重要論点のまとめ

優先株式に関する試験上重要な論点をまとめます。

・優先株式は「配当優先権」と「清算時投資元本回収優先権」を持つ株式

・清算時の企業の返済順位は債権者、債券保有者、優先株主、普通株主。負債相手への返済が優先される

・参加型優先株式は、配当優先に加えて受領出来る配当金額も普通株式より大きいことが決まっている株式のこと

・累積型優先株式は、現金不足で配当金が払えない年も計算しておいて、後年に配当受領権利を持ち越せる。

・累積型優先株式の繰越分の配当金は、繰越配当金(dividends in arrears)と呼ばれる

・繰越配当金は取締役会の決議を経ていないので法的に負債ではない。したがって計上しない

・繰越配当金は計上しないが注記(Note)には繰越配当金が発生している旨と金額を記載する。

・一株当たりに関連する比率計算のとき、優先株式に係る数値は控除する